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ときどき、お嬢さんを、スイスあたりの寄宿舎制の英語で教育する短大にやる優雅な家庭もあるが、男の子の場合、日本の大学に行かせるのが、基本である。 日本の大学を出ていないと、日本人の共同体から、はじき出されるからだ。
企業派遣でアメリカの大学のビジネス・スクーノレに通い、苦労して、英語の壁を乗り越えMBA (Master of Business Administration,マスター・オヴ・ビジネス・アドミニストレーション「経営学修士号」)を取得して帰ってきた優秀な人材が今や2000人ほどいるが、この人々を、この10年間、結局、日本の企業社会は、少しも活用しなかったのである。 彼らの大半は失望し、日本企業を辞めて、外資系企業に移って行った。
私は、このことを日本がこの20年間で新たな鎖国(isolation,アイソレーション)に向かっている証拠のひとつだと思っている。 日本は、目下、自国を外国から閉ざして、内側に立てこもろうとしているように思える。
かけ声だけは、「国際化社会を目指す」だが、実際はその逆である。 この「新たな鎖国」と「文化の防衛」を、日本語というコトバの壁を強固に築くことによって達成しているのである。
あるいは、訳のわからないおかしな英語公教育が、この壁そのものである。 日本人にとって、日本語という壁は、ものすごく分厚い。
同じ東アジアの諸国からさえ「変な国だなあ」と思われている。 自らを内に閉ざしておきながら、外側のものだけはどんどん吸収する、というのは、たいへん虫のいい話である。

日本は「文化泥棒」だと思われている。 だから、もし、あなたが本当に英語が好きで英語の勉強をしたいのであれば、日本語を棄てて、英語文化圏に逃れ出て、そこで「世界普遍価値」(world values, ワールド・ヴァリユース)あるいは、「西洋的価値」(western values, ウェスタン・ヴァリュース)の分かる国際水準の人間になってゆくしかないのではないか、と悲観的になる。
したがって、日本人が英語がへたな理由は、あるいは日本の英語教育の土台(基礎工事)がダメなのは、細かいあれこれの学習上の障害以外に、もっと大きな歴史的な背景があるのだ。 同じ東アジアにあってシンガポール、香港、マレーシア、インドネシア、フィリピンの普通の人々が英語を簡単に身につける。
その理由は、誰もが分かるとおり、これらの地域が、かつて欧米列強の植民地(コロニー)であり、そこに、欧米の言語と文化が移植されたからだ。 このように言うだけなら、多くの人が言ってきた。
そこで、ここから私なりの謎解きを進めよう。 pidgin (ピジン)Creole (クリオール)という言葉は知っているにちがいない。
世界の各地には、pidginEnglish (ピジン英語)とか、pidgin French (ピジン・フランス語)というものがある。 その他に、Creole English (クリオール英語)やCreole French (クリオーノレ・フランス語)がある。
pidgin English というのは、辞書をひけば書いてあるとおり、「混成語」のことである。 実に、奇妙な、舌たらずの変な英語のことで、植民地の現地の人々が白人との長年の貿易取引などのために編み出したカタコト英語だ。
「日本人英語」のことを「ジャパニーズ・イングリッシュ」や「ジャパングリッシュ」「ジャパニッシュ」と言ったりする人々がいて、「それでいいではないか。 堂々と使おう」と主張する人々がいる(学者でさえ、こういうことを言う人がいる)が、この日本人特有の、日本語と混ざった変な英語であるジャパニーズ・イングリッシュも一種のピジン英語である。

では、ピジン英語とちがって、クリオール英語というのは一体何か。 と問うと、こっちも言語辞典でさえ「現地語と混ざった英語」というぐらいのことしか書いていない。
ビジンとクリオールとは、どうちがうのか。 この質問に答えられたら、あなたは言語学者だ。
ここに大きな秘密がある。 クリオール英語というのは、カリブ諸国のひとつ、たとえばジャマイカで話されている英語である。
ジャマイカはレゲエ音楽の国だが、レゲエの神様Bの名曲の数々に、ジャマイカの英語で歌われている。 このクリオール英語は、かなり変なナマリの強い英語ではあるが、これもまた英語という言語の一種、すなわち、an English, a kind of Englishなのである。
ジャマイカ人は、この文法規則も一見メチャクチャに見える英語のようなものを、イギリスに行ってもアメリカに渡っても、堂々としゃべる。 そして、この変な英語を、英米人は、一応ちゃんと理解できる。
ジャマイカ人は、自分たちのクリオール英語で、アメリカ人と互角に、口げんかができる。 それに対して、ピジン英語はどうだろうか。
ピジン英語は、残念ながら英米人に聞き取ってもらえない。 「自分の英語がちっとも通じなかった」というショッキングな体験をしたことのある人は、それはあなたの英語がピジンだからである。
ピジン英語を話している者どうしでも、お互いの意思の疎通(communication,コミュニケーション)はあまりうまくできない。 最低限度、取引上の商品を選んで、代金を払うのに間に合う程度の「英語」に過ぎない。
しかも、ピジンとクリオールの違いは、単に上手、下手ということではない。 クリオール英語が英語の一種だということは、クリオール英語をしゃべっている人々は、英語を母国語にしている人々と、「コトバの心、コトバの精神」をいっしょにしているということなのである。
ひとつひとつの単語に込められた意味合い全部を、一応、すべて、引きずって、正統な規範的normativeな英語と対等の関係に立つことができる。 すなわち、クリオール英語というのは、言語としての英語のファミリーに属する一種の亜種だということである。
ジャマイカや他のカリブ海域の人々のしゃべって(書いて)いる英語は、親から子供へと、代々伝わってゆく英語である。 いわば、言語の遺伝子がつながっていて、それ自身が正統英語に過不足ないように伝わっていき、かつ、常に自己増殖できる一種のちゃんとした英語なのだ。

そして、マレーシアやインドネシアやフィリピンで使われている英語もこのクリオール英語である。 この点が大切なのだ。
これらの東アジア諸国の英語は現地語を多くそのまま採用しており、文法規則も正統英語に比べるとかなり崩れているのだが、それでも、英語という言語の核となる部分をちゃんと受けついでいる。 英米人抜きで自分たちだけでしゃべっても、それがちゃんと英語になっている。
だから、彼らは、高校に通って2年も英語の授業を受ければ、どんどん「正しいキレイな英語」になってゆくのだ。 ところが、日本人の場合はそうはいかない。
日本人の英語は、クリオールではなくて、ピジンであるから、そういうことがない、ということだ。 父から子へ言語の中心部分が伝わってゆくということがないように出来ている。
このことは、私か20年をかけて勉強した英語と英語の知識は、私の子供には全然伝わらない、ということである。 私が死ねば、それで終わり。


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